のんきや(串カツ)

名古屋駅北エリアにソレを食べれば概念が変わるほどの串カツ屋がある、と聞いたので平日夕方早い時間から出かけた。
舗道に客がわらわら立っている。並んでいるのか、いないのか?

慣れた様子で入っていったおじさんの後ろから連れのお姉さんがあたしたちを見ながら「並んでいる人がいるのよ〜」と気にしてくれた。すぐにお姉さんが戻ってきて、「奥が空いてますよ」
狭い店内。テーブルと椅子がテキトーに置いてある一番奥に勢いで入り込んで座る。が、座った瞬間に大変なところに入ったと悟る。注文はいつまで待っても聞いてもらえる気配はない。気難しそうなおばちゃんが新入りに気づきながらも無視したまま行ったり来たりしている。そこで同行者のひとこと、「そういえば、同じ会社の人がケンカして帰ってきたって言ってた・・・」

意を決して、「ビール1本」と頼むと、おばちゃんの大きなため息。「で、キリン、サッポロ、ドライ?」「ど、ど、ドライ」これが精一杯だった。

落ち込んでいると同じテーブルの隣のおじさんが小さく教えてくれた。「ビールって頼んじゃダメなんだよ。銘柄言わないと。で、旅行者?」
いや、このあたりに生息するものです。おいしいと聞いて出かけてきました。よくわからずに入ってしまったんです。何をどう頼めばいいんでしょうか

ビールが届いたのでおばちゃんに慌てて「串カツ2本・・」と頼むと、またまた大きなため息。「2本なら、自分で取ってきて」
負けないぞ!

入り口で焼いている側で声をかけて何がなんだかわからない串モノを取ろうとしたら、大将からストップ。「そっちはまだダメっ。おでんなら勝手に持って行っていい」
おでん鍋から玉子を2本。持っていける串を2本。それだけ持って席に戻る。

周囲の人たちに心得を聞く。「初めてなら難しいね。頼み方とかいろいろあるからさ。ビールで失敗しちゃったね」安いしおいしいし雰囲気が楽しめるからいつも混雑しているらしい。何しろ串が1本65円とかである

なす術もなくガチガチに固まりながら玉子を食べようとしたら、おばちゃんからストップの声が。「おねーさん、味噌かかっとらんがね、貸してみやぁ、かけてきたげるわ」
緊張したあたしは、おでん鍋からただただ玉子を引っこ抜いてきただけだった。
瞬間、椅子から立ち上がり両手で玉子を乗っけた皿を差し出し「お願いしますっ」と体育会系のように頼む。ヒヨワなヒネクレモノなのに、こういうときは素直に調子のいいあたし。

おじさんたちに「お〜珍しいこともあるもんだ」と驚かれる。

なんとかささやかな注文を通して平和に食べていたら、またおばちゃんの声。「おねーさん、ねぎま焼けたよ、いる?」「はいっ もちろんっ」「で、シオ、タレ、揚げ?」「シ、しおっ」
またまた、「お〜 焼けたって声かけてもらうのなんか初めて見た。10年来ているけどねぎまの揚げがあるなんて初めて知ったぞ」と驚かれる

それほど、あたしたちは見ていられないほど周囲から浮きまくって痛々しかったんだろう。おばちゃん、ありがとう。1年にも思える1時間を過ごし、無事お会計では千円札からおつりが帰ってきた(ひとりあたりね)。

後日、「概念が変わる」とあたしに教えた人にコトの顛末を語った。その人は、「はぁ」とうなづいて、「あそこで女の人だけで食べてるとこは見たことないからねぇ よく初心者だけで行ったねぇ」
だったら最初に教えてくれっ!